2024年4月20日土曜日

天からデンマーク国旗が降ってきた Lyndanise 1219(VV118) AAR①

  先日、「デンマーク侵攻のゲームはあるかな?」ってつぶやきを見て、そういや4月9日はドイツ軍がデンマークに侵攻した日だったなと思い出した。

デンマークは一日も持たずあっさり降伏したのでそりゃゲームにはなりづらい。まあ、ASLのシナリオではデンマーク戦があるらしいし、「Noruega 1940」というノルウェー侵攻を扱ったゲームのシナリオとして、ALEA38号にデンマーク侵攻の仮想戦が載っているけど。

 ぶっちゃけWW2ではデンマークってしょぼいというか、思いっきり弱小国の印象だけど、でもね、昔っからそんな感じだったわけじゃないんですよ。かつては北欧の強国で、トルフィンの時代に西はイングランドを征服しているし、東はバルト海に勢力を広げている。クヌートのイングランドの戦いは以前プレイしたことがあるので、今回はバルト海方面での戦いをやってみた。


 プレイしたのは1219年に今のエストニアの首都タリンにあたる場所で起こった戦い。11世紀末に始まった十字軍の影響でバルト海沿岸もキリスト教勢力による征服が進んだ。12世紀末ごろには今のリトアニア、そしてエストニアもキリスト教化の対象となる。だが先住民である異教徒の執拗な抵抗にあい、デンマーク王ヴァルデマールII世に援軍を派遣するよう要請が来る。1219年、ヴァルデマールII世は大艦隊を率いて現在のタリン付近Lyndaniseに上陸した。強力なデンマーク軍にエストニア人は抵抗するべくもなく降伏を申し出る。だが、そうして油断させておいたところにエストニア人は奇襲をしかけた、という戦い。

 ゲームは「Lyndanise1219」といってVaeVictis118号の付録で、前回AARを書いた「Basileus II」と同じく中世の会戦を簡単なルールでシミュレートしたA la Charge!シリーズである。

 デンマーク軍をエストニア軍が挟撃する形になるのだが、奇襲効果でデンマーク軍は最初はステップロスの状態となっており、時間がたつにつれ回復していく。またデンマーク軍の指揮官は3ユニットあるが、そのうち1ユニットだけが本物のヴァルデマールII世でほかの2つはダミー。どれが本物かはエストニア軍にはもちろん、奇襲による混乱を反映してデンマーク軍にもゲーム中盤になるまでわからない。

 このLyndaniseの戦いでは、デンマーク軍は油断しきっていたところにエストニア軍の攻撃を受けて苦戦に陥る。危うしデンマーク軍! そのとき、天から白い十字架が描かれた赤い旗が降ってきた。おお、これこそ神のご加護が我らにあることの印! デンマークの兵たちはこの奇蹟に奮起、エストニア軍を打ち破った。そしてこの時現れた旗がのちのデンマーク国旗ダンネブロになったのである……という伝説があったりする。このゲームでも、デンマーク軍の壊滅したユニット戦闘力合計が12になるとダンネブロが現れることになっている。

 このゲーム、以前MAでAARを書いたことあるけど、ルールはシンプルでコマ数が少なく5ターンなのでサクッと終る。そのわりには上記のようにいくつか仕掛けがあるので飽きがこず、個人的には気に入っている。


●第1ターン

 エストニア軍が東西(マップ下と上)から奇襲をしかけた。混乱状態のデンマーク軍は次々と壊滅していく。唯一、マップ下方では攻撃側にも出血を強いたものの、その隣の精鋭騎兵が士気チェックを強いられ失敗、兵は恐慌状態となり戦場から逃げ出した。この騎兵ユニットは正常状態だと戦闘力4とデンマーク軍最強なので、初っ端から壊滅してしまうのは非常に痛い。

 だがその時、おお、天からダンネブロが降ってきた。神のご加護を信じて戦うのだ!


つづく

2024年4月17日水曜日

ビザンツ帝国軍vs歴戦の傭兵部隊。フランク重騎兵は裏切るのか、ヴァリャーギ親衛隊は敵の猛攻をしのげるのか Pont de Zompos 1074 - Basileus II(VV162) AAR③

 ●第5ターン(続き)

 ついに強力なフランク重騎兵が敵に寝返ってしまい、ラテン軍の攻撃で壊滅する部隊が出てきたビザンツ軍だが、必死に反撃。先ほどフランク騎兵の攻撃をしのいだマップ左端の騎兵が逆に敵の歩兵を壊滅させる。そして弓兵と弓騎兵をかき集め、突出してきているラテン軍騎兵に集中射撃、4戦闘力の敵精鋭騎兵をステップロスさせた。


●第6ターン

 指揮官のルーセル・ド・バイユールが陣頭に立ち、中央部で激しく攻め立てる。マップ左方ではヴァリャーギ親衛隊が意地を見せラテン軍騎兵2ユニットの攻撃を撃退したものの、これまでの激戦で消耗していたビザンツの歩兵が次々と壊滅していった。これでビザンツ軍の累積損害は一気に15に上り、ラテン軍の損害を上回ってしまった。


 そして迎えたビザンツ軍ターン。これまで静観していたビザンツ軍右翼だったが、友軍の苦戦を見かねてついに動いた。前進して敵の左翼(マップ右方)を抑えにかかる。


 このビザンツ軍右翼を率いるニケフォロス・ボタネイアテスは戦闘経験豊富で、戦いの前に指揮官のドゥ―カスに対して慎重に行動するように進言したが、ドゥ―カスは聞かずにZompos橋を渡って敵に攻撃をしかけたらしい。ちなみにこの戦いの4年後に皇帝となるが、1081年にアンナ様のお父様によって帝位を奪われている。


 やっと動いたニケフォロスの部隊に戦場の右方はまかせ、指揮官のドゥ―カスが中央に転進してルーセルに突撃。傭兵の分際でビザンツ帝国に反旗を翻すやつは生かしておけん! ヴァリャーギ親衛隊の支援も受けて、ルーセル直属のラテン精鋭騎兵に損害を与える。さらにはマップ左方で敵騎兵を壊滅、ラテン軍の累積損害は14とビザンツのそれに迫った。


 この戦いのビザンツ軍の指揮官ヨハネス・ドゥ―カスは名門ドゥ―カス家の一員で、当時の皇帝ミカエル7世の叔父。だがこの戦いで敗北しルーセル・ド・バイユールの捕虜となった。その後ルーセルがコンスタンティノープルの皇帝ミカエル7世の政権を転覆させるためにこのヨハネス・ドゥ―カスを皇帝に擁立、ヨハネス・ドゥ―カスは甥である皇帝に反旗を翻すことになる。だがビザンツと手を組んだセルジューク・トルコによって捕えられるという人生を送っている。


●第7ターン

 戦場の中央と左方で激戦が続き、両軍とも消耗が激しい。ラテン軍はいまだ無傷でいるマップ右方の騎兵2ユニットを中央にシフトさせようとするも、猪突猛進のチェックに失敗、全く意のままに動かない。この激戦でラテン軍騎兵は興奮しているのか、さきほど前進してきた、目の前のビザンツ軍右翼にむかってしまった。

 マップ左方ではビザンツ騎兵を包囲、寝返ったフランク騎兵が攻撃するもAR。やはり裏切者に対してはビザンツの兵たちも通常以上の力が出るのか。しかし、これまで攻守ともにビザンツ軍を支えてきた精鋭のヴャリャーギ親衛隊が、ルーセル・ド・バイユールの攻撃でついに壊滅した。


 これでビザンツ軍の累積損害は19となった。20に届いたら負けである。自軍が崩壊する前に敵を打ち破らなくては。指揮官のドゥ―カスが猛攻、敵騎兵をステップロスさせる。自軍指揮官の奮戦に士気が上がったか、マップ左方でこれまで何度も敵の攻撃をはねえしてきたビザンツ騎兵がラテン軍歩兵を蹴散らす。そして弓兵と弓騎兵の集中射撃でラテン軍の弓兵が壊滅。ラテン軍の累積損害が17に上る。ラテン軍は累積損害が18になったら負けなので、ビザンツ軍同様に後がなくなってしまった。


●第8ターン

 両軍ともに、あと1ユニット敵を壊滅すれば勝ちである。ラテン軍は各所で必死に攻撃して敵に損害に与えるものの、除去には至らず。逆にビザンツ軍は、指揮官のドゥ―カスが陣頭に立って敵騎兵を包囲、殲滅した。これでラテン軍は累積損害が18を超えてしまい、敗北となった。


 傭兵の反乱は抑えられ、ビザンツ帝国は一息つけることになる。だが一筋縄ではいかないルーセル・ド・バイユールはこの戦いに敗北しても性懲りもなく帝国に反旗を翻すことが予想される。実際、史実ではルーセルはこの勝利するもののその後アンナ様のお父様に捕らえられ、釈放されて反乱鎮圧に派遣されるもののもまた反乱に加わっている。こんなノルマン傭兵を使わざるを得ないビザンツ帝国の苦悩がうかがえますな。しかもZomposの約20年後にはセルジューク・トルコに対抗するため西欧から蛮族を呼び寄せたと思ったら、宗教的熱狂に包まれた騎士たちが大挙してやってきちゃったという。よくまあビザンツは千年続いたもんだとまたも思ってしまいます。


 この「Basileus II」、ルールはもちろんヒストリカルノートも和訳しているんで、ご興味持たれた方はぜひプレイしてみてください。


2024年4月13日土曜日

ビザンツ帝国軍vs歴戦の傭兵部隊。フランク重騎兵は裏切るのか、ヴァリャーギ親衛隊は敵の猛攻をしのげるのか Pont de Zompos 1074 - Basileus II(VV162) AAR②

 ●第3ターン(続き) 

 敵ラテン軍の一斉攻撃を受けたビザンツ軍だが、ひるむことなく反撃。将軍ドゥ―カスは精鋭騎兵のAthanatoiを率いて突撃する。ちなみにこのAthanatoi、「不死」という意味らしい。中央では3ユニットいるヴァリャーギ親衛隊が奮戦。ビザンツ軍の激しい攻撃でラテン軍も損害を被っていった。


●第4ターン

 両軍がやっとぶつかったこのタイミング。フランク騎兵よ、寝返ってくれ! というラテン軍の思いに反して、またもビザンツを裏切らず。このフランク騎兵は戦闘力4と強力なので、相対している右翼(マップ左方)が危ない。ラテン軍は中央の精鋭騎兵を右翼の支援に回そうとするが、猪突猛進(Impétuosité)のチェックに失敗。目の前の敵に突っ込んでいってしまう。マップ右方の騎兵も左方にシフトさせようとするが、これまたチェックに失敗しすぐ近くの敵に向かって突進してしまった。ええい、この脳筋どもめ、目の前の敵に飛びかかるのではなく、もっと頭を使え! 頭に血が上っている兵たちを思うように動かせないラテン軍だったが、右翼(マップ左方)で反撃、敵を壊滅させ包囲されていた騎兵を救出した。

 また中央では指揮官のルーセル・ド・バイユールが精鋭騎兵を率いてヴァリャーギ親衛隊を強襲。ルーセルはスタックしているユニットの戦闘力に+2できるため、さしものヴァリャーギも損害を被って後退した。

 ヴァリャーギはビザンツの精鋭部隊で、皇帝の親衛隊となっていた。主にスカンディナビア出身の兵からなっていたが、北欧から西にむかって略奪行を繰り返したのがヴァイキングと呼ばれていたのであり、東に向かってビザンツに雇われたのがヴァリャーギなわけである。

 「ヴィンランド・サガ」でいい味出しているキャラの蛇は、漫画でははっきり描かれていなかったけどアニメではビザンツでヴァリャーギとして戦っていたことが示唆されていましたね。以前紹介したヴァイキング小説「The Long Ships」はスウェーデン南部が主な舞台の一つですが、ビザンツ皇帝に仕えたって人が登場していました。それになにより、漫画「アンナ・コムネナ」の第一巻でも金髪碧眼でひげもじゃのヴァリャーギ親衛隊とアンナ様が会話しているシーンがちょろっと出てきますね。

 ただ1066年にビザンツから遠く離れたイングランドでノルマン・コンクエストが起き、敗北したアングロ・サクソン系の兵がビザンツに流れ来たそうだ。Zomposの戦いがあったのは1074年で、この時期のヴァリャーギにはイングランド出身の兵が多く含まれていたと推測する資料もあった。


 ラテン軍の激しい攻撃に対してビザンツ軍も負けずにやり返す。マップ右方では指揮官のドゥ―カスが陣頭で奮戦、敵騎兵を壊滅させる。またマップ左方ではビザンツ陣営にとどまっているフランク騎兵がその戦闘力を発揮、敵騎兵を蹴散らした。そしてステップロスして1戦闘力となっているラテン軍歩兵をヴァリャーギ親衛隊が鎧袖一触。合計ラテン軍3ユニットを壊滅させた。


 A la charge!シリーズでは基本的に、勝敗は敵に与えた損害の数で決まる。両軍とも壊滅したユニットの戦闘力を合計していき、シナリオで決められた軍士気閾値(seuil de Moral d'Armée)に達すると負けとなる。このZompos橋の戦いでの両軍の士気閾値は、ビザンツ軍は20、ラテン軍は18だ。

 このターンのビザンツ軍の攻撃でラテン軍の累積損害は8に上った。一方、ビザンツ軍はまだ3。フランク騎兵が早く寝返らないとラテン軍としては苦しい戦いとなる。


●第5ターン

 形勢不利となってきたラテン軍だが、ここでフランク騎兵が寝返り! ビザンツを捨て、同じ西欧出身の傭兵としてルーセルたちと運命を共にする気になったのか。

 マップ左端で孤立することになったビザンツ騎兵を歩兵とともにフランク重騎兵が攻撃するも、傭兵の裏切りに憤ったビザンツの兵たちが奮戦、3ユニットによる攻撃を持ちこたえた。だが中央では再びルーセル・ド・バイユールの攻撃を受けたヴァリャーギ親衛隊が消耗、さらにはマップ右端でこれまで敵の猛攻をしのいでいたビザンツ騎兵もついに力尽きて壊滅した。


つづく


2024年4月10日水曜日

ビザンツ帝国軍vs歴戦の傭兵部隊。フランク重騎兵は裏切るのか、ヴァリャーギ親衛隊は敵の猛攻をしのげるのか Pont de Zompos 1074 - Basileus II(VV162) AAR①

  漫画「アンナ・コムネナ」の第5巻が出ましたね。これでビザンツ関連の話題がまた盛り上がると思うんですけど、おりしもVaeVictisの最新号の付録ゲームは、6世紀東ローマ帝国を扱った「Romanitas」。プレイの例までデザイナーさんが公開してくれていたので和訳したし、ルールも和訳したし、それにソリティアだからプレイのハードルはかなり低いはず。アンナ様より数世紀前のビザンツが、ユスティニアヌス帝のもとでかつての栄光を回復し、その後は四方を敵に囲まれながら帝国を存続させる過程を味わえます。みんなプレイしようね!


 と一人で盛り上がっていたんだけれど、ビザンツの戦いをやりたくなって出してきたのがVaeVictis162号の「Basileus II」。10~11世紀のビザンツ帝国の東方での戦いが5つ収録されている。でもね、5つの戦いのうちビザンツが勝ったのは1つだけなんですよ。そのうちの一つはビザンツが大敗したマンジケルト。この時期の中東方面の戦いでマンジケルトは外せないってのはわかるけど、でも他のはビザンツ勝利のものをもっと選んでくれてもよかったんじゃない、とちょっと文句言いたくなる。


 それはさておき今回プレイするのはZompos橋の戦い。場所は現在のアンカラの南西のほうらしい。西欧からやってきた傭兵隊長ルーセル・ド・バイユールRoussel de Bailleulが反乱、アナトリア地方に自分が支配する地域を打ち立てようとするが、3年前のマンジケルトで大敗してから落ち目のビザンツ帝国としてはそんなことを認めるわけにはいかず討伐軍を送った、というもの。時代的には第一回十字軍の約20年前で、アンナ様のお父様のアレクシオス一世はまだ帝位についていないどころか20歳前後の若造だったころ。

 この戦いでもビザンツ側は負けたんだけど、なんでこのシナリオを選んだかというと、以前読んだ『The Norman Commanders』にルーセル・ド・バイユールが出ていたから。11世紀後半、南伊で急速に勃興したノルマン勢力のもとで戦歴を積んだ後、ビザンツの傭兵となり重騎兵を率いて活躍したというこの人物、いっぺん戦わせてみたくなるじゃないですか。

 このZompos橋の戦いのシナリオは、両軍が相対しての初期配置となる。マップ上には橋はないが、ビザンツ軍は橋を渡り、ルーセル・ド・バイユールの軍勢にむかって進軍してきたそうだ。

 ビザンツ軍はラテン軍(ビザンツでは西欧人のことをラテンと呼んだ)よりわずかに数で勝っているように見えるが、右翼の4ユニットは毎ターン動向チェックがあり、20%弱の確率でしか動かない。しかもサイの目によっては移動のみで戦闘不可とか、2ユニットのみ移動・戦闘可能などかなり制限があるため、ビザンツ軍は右翼をあてにできなくなっている。それに加えて、ビザンツ軍の左翼にいる強力なフランク騎兵は敵に寝返る可能性がある。そのため、ビザンツ軍はかなり不確定要素を抱えながら戦うことになる。

 一方のラテン軍は戦闘力+2となる強力な突撃能力をもつ騎兵が主力。ただし同軍の騎兵はすべて猪突猛進(Impétuosité)の性質を持ち、敵の3へクス以内で移動しようとすると3分の1の確率で一番近い敵に向かって移動してしまう。血気盛んな西欧の傭兵たちが、指揮官の言うことを聞かず目の前にいる敵に突進していくって感じかな。このため、ラテン軍は計算どおりに攻撃できないということが起こりえるのだ。


●第1~第3ターン

 ラテン軍は少しずつ距離を詰めていく。敵左翼にいるフランク騎兵は毎ターン寝返りチェックがあり6分の1の確率で裏切るため、時間を稼いで裏切りが発生したときにここぞとばかりに攻撃すればいいのだ。

 一方のビザンツ軍もじわじわと敵に前進していく。フランク騎兵が寝返る前に攻撃したいが、ビザンツ軍の主力は歩兵で移動力が2しかなく、歩騎が協調して攻撃するためには歩兵の移動力に合わせる必要がある。またラテン軍の騎兵は戦闘力が+2となる突撃が行えるが、そのためには3へクス離れたところから移動してきて攻撃する必要がある。敵の強力な突撃を封じるよう、ビザンツ軍は距離を詰めていった。

 先にしびれを切らしたのはラテン軍の方だった。フランク騎兵が裏切るまで交戦を避けて後退しようにも、敵を眼前にして興奮した騎兵たちが勝手に攻撃をしかけてしまうかもしれない。ならばこちらから打って出る! と早くも第3ターンに攻撃をしかけた。このゲームは「A la charge! (突撃!)」というシリーズの一つなのだが、このシリーズでは1.5対1の低比率でも3分の2の確率で攻撃が成功するため、積極的に攻撃したほうがいい場合が多い。


 マンジケルトで惨敗したビザンツ帝国など恐るるに足らず。俺たち傭兵がいなけりゃろくに戦争もできないだろうが! 一斉にビザンツ軍に襲いかかったラテン軍。敵中央のヴァリャーギ親衛隊の奮戦で指揮官ルーセルが撃退されたものの、ビザンツ軍に次々と損害を与えていった。


つづく

2024年3月29日金曜日

ノルマンディーとイングランドの兄弟喧嘩。殴り合いを制するのはどっちだ!? Tinchebrai 1106 - Norman Conquests(GMT) AAR ⑤

  イングランド軍右翼のラヌルフ隊の猛烈な攻撃に続いて、中央のロベール・ド・ボーモンが動く。先ほど奮戦した敵の精鋭歩兵を再び攻撃。さすがの精鋭も2度目の攻撃は支えきれず、混乱状態になって後退する。こうして敵に損害を与えつつ、ロベール・ド・ボーモンは混乱状態にあるユニットの回復に努めた。

 イングランド軍の好きにさせてたまるか。敵も大いに出血しているのだ、死力をふるって攻撃し続けろ! と中央のノルマンディー公ロベールがやり返す。先ほど敵の波状攻撃で損害を被っていたにもかかわらず精鋭歩兵が奮戦、同じく消耗していた敵槍兵を敗走させる。そして弓兵が敵指揮官ロベール・ド・ボーモン率いる重装騎兵に至近距離まで近づいて矢を放つ。イングランド軍は次々と馬を失い混乱状態に陥った。そこに槍兵が白兵戦をしかける。この槍兵自身も混乱状態だったが、奮戦し敵を敗走させた。必死に兵を押しとどめようとしたイングランド軍の老将ロベール・ド・ボーモンは、この混戦の中で戦死してしまった。 

 そしてノルマンディー軍右翼(マップ右方)のモルタン伯ギョームが動く。敵の重装騎兵を指揮官ギョームが自ら仕留め、配下の槍兵が軍旗の下に敗走していたサリー伯部隊の兵を掃討していった。イングランド軍左翼は崩壊である。さらにノルマンディー軍左翼(マップ左方)のポンティユー伯ロベール・ド・べレームが続く。先ほどのイングランド軍右翼のラヌルフ隊の攻撃で大損害を受けていたため、後退して態勢を整えようと努めた。

 ここでやっとイングランド軍に自由活性が回ってくる。このシナリオではイングランド軍は自軍の自由活性の際に増援の登場チェックが行える。失敗するごとに有利なサイの目修正がつくので、時間がたてばたつほど増援が現れる確率が高くなる。これまでずっと登場チェックに失敗していたが、頼む、イングランド軍の最後の攻撃に間に合ってくれ、との祈りを神が聞き入れたか、ブルターニュ公アラン四世の重装騎兵部隊がついに登場! だが遅い。遅すぎる。史実ではイングランド王ヘンリーI世がブルターニュ騎兵に戦場を迂回させ、敵の側面から後方にかけて奇襲、ノルマンディー軍を崩壊させている。このシナリオでも増援の重装騎兵3ユニットは強力なのだが、すでにイングランド軍の累積敗走ポイントは敗走レベル(Flight Level)の21を上回っており、敗北が決まっている。イングランド軍としてはブルターニュ騎兵の攻撃でできる限り敵に損害を与え、この自由活性の終了時の敗北チェックでノルマンディー軍も崩壊させ、引き分けに持ち込むしかない。


 増援として現れるブルターニュ公アランはタンシュブレーの戦いの10年前に第一回十字軍に参加している。ちなみにブルターニュはノルマンディーの西隣にあたり、両地方はずっと抗争を続けていたらしい。ブルターニュ公国は中世の間、実質的な独立を保つが、百年戦争の後にフランスに屈服する。これはVaeVictis160号でゲームになっていますね。あと、漫画『ブルターニュ花嫁異聞』はまさにブルターニュが主な舞台で、これは13世紀のお話。

 

 マップ右方から重装騎兵部隊が土煙を上げて敵の側面に突撃。突然現れた騎兵集団にノルマンディー軍左翼の兵たちは浮足立ち、ブルターニュ公アラン四世率いる重装騎兵の突撃を防ぐすべもない。歩兵が次々と蹴散らされていき、さらには指揮官のロベール・ド・べレームは戦死してしまった。ちなみにこのロベール・ド・べレーム、史実では敵の騎兵部隊が出現すると一目散に戦場から逃走したらしい。

 このブルターニュ部隊の奇襲攻撃でノルマンディー軍の累積敗走ポイントは15に上った。敗走レベルは18で、10面体ダイスを振って60%の確率で敗北となる。そしてサイの目は5。これまでの激戦に耐えられず、ノルマンディー軍の士気も崩壊してしまった。イングランド軍も敗走レベルを超えているので、この兄弟間の死闘は引き分けとなる。ボクシングの最終ラウンド、それまでの激しい殴り合いで立っているのもやっとの赤コーナー・ヘンリー。最後の力を振り絞って放った右ストレートが青コーナー・ロベールの顔面をとらえ、両者ともにリングに崩れ落ちた ― という感じでのゲーム終了である。


 このAAR冒頭で書いたように、このシナリオではノルマンディー軍が不利である。だが既述のように攻撃側が有利なので、果敢に攻撃して殴り合いを制すれば勝機はあると思われる。まあ、もちろんイングランド軍の増援がいつ現れるかにもよるんだけど。

 タンシュブレーの戦いはウォーゲーム的にはマイナーだと思うけど、Hollandspielの「Shields & Swords II」シリーズの、「House of Normandy」というゲームにTinchebraiのシナリオが収録されている。PnP版が12ドルと廉価で手に入るので、「Norman Conquests」のこのシナリオと比較してみるのもいいんじゃないでしょうか。


2024年3月25日月曜日

日本のウォーゲームは質が高いのになぜ英語版があまり出ない?などなど、ウォーゲーム英訳者が語ってくれました

  先日、ゲームジャーナルの「フランス革命 1789」を英訳したっていうツイートを見たんですが、そうつぶやいたScott Muldoon氏はこれまで日本のゲームを多く英語に訳してきたそうなんですね。そのScott氏がYouTubeで日本のウォーゲームについて語るってツィートを見て、お、これは見なくては、と思ったんですけど、日本時間早朝5時のライブ配信。こりゃ無理だわ、ライブ視聴はあきらめて後で見ようって日和ってたんですが、結局、生で見てしまいました。

 Scott氏が登場したのは、ウォーゲームのデザイナーとトークしたりするHomo LudenceというYouTubeチャンネル。「Exploring Japanese Tabletop Wargames」というタイトルで、1時間強にわたるトークセッションとなりました。眠かったけど面白かったので最後まで見ましたよ。

 今回のトークはいろんな話題に飛んだんですが、日本のウォーゲームの歴史についてもざっと説明してくれていました。鈴木銀一郎のことはgrandfather of Japanese wargamesって言ってましたね。あと、ウォーゲームが冬の時代を迎えた後「ゲームジャーナル」と「コマンドマガジン」が創刊されたというのは日本のウォーゲーマーだったらたいてい知っていると思うんですけど、out of ashesなんて表現を使っていました。たしかにあのころはウォーゲーム業界は悲惨な状況だったみたいですからね。それと、Tetsuya NakamuraとYasushi Nakaguroの二人は海外で最も知られているデザイナーだそうです。(でも、「ふ~ら~中村」とは言わないのね。)

 「コマンドマガジン」と「ゲームジャーナル」について結構話していて、それにBonsaiゲームズのゲームについては何回か触れられていたけど、BANZAIマガジンへの言及は無かった気が。惜しい。あと、和栗南華氏という若いウォーゲーム・デザイナーが出てきてることも紹介してほしかったなー。(あ、別に自分はBANZAIマガジンの回し者じゃありませんよ)

 日本のゲームは質が高いのに、なぜあまり英語化されないのか?という質問が出たんですけど、この業界の人手不足(というか収益体制の問題かな?)があるようです。Scott氏が一緒に仕事をしたウォーゲームのパブリッシャーの多くはフルタイムの社員がほとんどいなかったとのこと。ウォーゲーム業界はこのホビーを愛する人たちによって支えられており、そういった人たちが自分の時間とエネルギーをつぎ込むことでこの業界は成り立っているみたいですね。Scott氏も、仕事としてよりもまずは自分がプレイしたいと思ったゲームを訳してみるって言っていました。

 それと、日本の歴史があまり欧米では知られていないから関心を引かない、という点も指摘されていました。戦国時代や明治維新っていったら日本で人気ですが、アメリカで知っている人は多くない、と。でも、この番組のホストのFrédéric Serval氏が、最近はユニークな題材のゲームが出てきていて、バルジやスターリングラード以外のものをプレイしたいという新しい層が現れているって言っていましたね。その潮流が強まれば、日本史ゲームや、武士ライフなんかも英語化される可能性が出てくるのかな?

 Scott氏が手掛けたゲームで次に出るのは、という質問に、一ヶ月ほど前、中村氏の激闘シリーズの「激闘!ロンメル軍集団」と「激闘!マッカーサー国連軍」を訳したって答えたら、Frédéric Serval氏が「今すぐプレイしたい!」って突っ込んでいました。やっぱり「Victory Lost」に始まる激闘シリーズは海外でも人気なんでしょうね。今回のトークでも結構激闘シリーズについて語っていました。それと、「フランス革命 1789」もちょうど最近英訳したってScott氏が言ったら、「誘惑するのはやめてくれ」ってFrédéric氏が笑ってました。うーん、やっぱりゲームのことを聞くとプレイしたくなるよね。もっと日本のウォーゲームが英語で出ないかなー。

 すっごく好きで、英語版が出てほしい日本のウォーゲームは?と聞かれて、好きなのがありすぎて選べないってScott氏が答えたんだけど、とりあえず今一つだけ選ぶとしたら、と重ねて聞かれると、Bonsaiゲームズの「ライズ・オブ・ブリッツクリーク」を挙げていました。1940年の西部戦線を扱ったゲームはたいてい独軍が強力だけど、このゲームは、仏軍が数的にも優勢なのになぜ負けたのかということをシミュレートしている数少ないゲームだそうです。へー。でもこのゲームは英語化がもう決まっているそうですね。

 あと、最後の方で日本のウォーゲームのグラフィックの特徴は、という質問から、日本はゆるい(relaxed)っていう指摘が出て、あるカードゲームの英語版は実際の歴史的な写真を使っているのに、オリジナルの方はアニメギャルがビキニを着ていて、なんて例が出されていたけど、「ばるば★ろっさ」かな。でもあれって英語版あったっけ。で、その話の流れで「ぱんつぁー・ふぉー」の1と2が出されてきて、そのうち「MC☆あくしず」も登場するんじゃないかとひやひやしましたよ。いや、別に日本の雑誌として紹介していただいても問題ないんですけどね。それと、ゲームジャーナルのリプレイマンガでは毎回、冒頭に女性のイラストが描かれていることについても、言葉を選んで話していて批判的な印象は受けなかったですね。

 と、1時間ちょっとのトークショー、結構楽しめました。日本人のウォーゲーマーだったら興味を持てる内容が結構あると思うので、よければ視聴してみてください。

2024年3月22日金曜日

ノルマンディーとイングランドの兄弟喧嘩。殴り合いを制するのはどっちだ!? Tinchebrai 1106 - Norman Conquests(GMT) AAR ④

  ノルマンディー軍左翼(マップ右方)のポンティユー伯ロベール・ド・べレームに続いて、右翼(マップ左方)のモルタン伯ギョームが継続活性。すでに大きな損害を被っている敵サリー伯の部隊に、とどめだとばかりに激しい攻撃を加える。イングランドの兵たちは自部隊の軍旗目指して我先に敗走。サリー伯が率いる重装騎兵だけがからくも持ちこたえた。

 ノルマンディー軍の攻撃によって右翼のラヌルフ隊は大きな損害を被り、左翼のサリー伯隊にいたってはほぼ壊滅状態。左右両翼で危機にさらされているイングランド軍。唯一無傷でいるのは中央後方に布陣しているヘンリーI世の部隊のみ。たった2ユニットの部隊だが、精鋭の下馬騎士で、防御力も高い。この王直属部隊を投入すべきか。


 イングランド軍を率いるヘンリーI世はノルマンディー公ロベール二世の弟で、征服王ウィリアムが死去した際、ロベールがノルマンディーを、もう一人の兄ウィリアムがイングランドを相続したが、ヘンリーは現金をもらっただけだったそうだ。だがイングランド王となったウィリアムが狩猟中に死去。その死因には諸説あるようだが、とにかくすぐさまヘンリーはウェストミンスターに駆け付けそこにあった王室の宝庫を確保、そしてイングランド王に即位している。優秀な指揮官であった一方で冷酷な面も持ち、ヘンリーのせいで孫娘がむごい目にあっている。そのことに激怒した孫娘の母親、つまりヘンリーの娘が、クロスボウで自分の父を狙撃、危ういところで矢がそれた、というエピソードが残っている。おいおい、どんな親子だよ。


 しばし迷ったイングランド軍だが、王を危険にさらすな、とイングランド軍右翼のラヌルフが配下の兵を叱咤して突進させる。粘っていればブルターニュの重装騎兵部隊が敵の側面を攻撃し始める。そう信じて戦い続けるのだ。 

 ラヌルフの槍兵1ユニットが敵の混乱状態の2ユニットを一気に壊滅させる。さらに、先ほど突撃してきたノルマンディー軍指揮官ポンティユー伯ロベール・ド・べレームに対し、ラヌルフが重装騎兵とともにチャージ! 慌ててポンティユー伯がカウンターチャージを命ずるものの、消耗しているイングランド軍から突撃を受けるとは思っていなかったノルマンディー軍の騎兵はカウンターチャージに失敗。浮足立つノルマン騎兵にラヌルフが突っ込む。たまらずノルマン騎兵は混乱状態で退却。逃すか、とさらにラヌルフが追い打ちをかけ壊滅させる。その勢いは止まらず、ついでとばかりにノルマン弓兵を攻撃して損害を与えた。


 Men of IronシリーズではMounted Men-at-Armsなどの兵種が白兵戦や射撃、突撃を受けた場合、カウンターチャージを試みることができる。敵から攻撃を受けた精鋭の騎兵が、なめるな! とやり返す、ってことですね。突撃に対するカウンターチャージは基本的に50%の確率で成功し、敵の突撃の効果を無効にする。Men of IronシリーズではMounted Men-at-Armsなどは兵種としても白兵戦で有利なのだが、突撃やカウンターチャージが行えるためさらに強力なユニットとなる。「Men of Iron Tri-pack」収録の「Infidel」に登場する騎士(Knight, KN)なんか、狂暴なまでに強い。

 また、今回のラヌルフの突撃はサイの目が走り継続攻撃(Continue Attack)が続いた。正常状態の防御ユニットに対する攻撃は、白兵戦では継続攻撃は得られず、突撃でサイの目がいい場合のみ、防御側が混乱して退却、継続攻撃となる。混乱した防御ユニットに対する継続攻撃ではさらに継続攻撃を得られる可能性があり、連続して継続攻撃を得たラヌルフは敵部隊を切り裂いていったのである。  


 左翼が大損害を被っていたイングランド軍は一方的に敗走ポイントが蓄積していき、13となっていたが、このラヌルフ隊の奮戦でノルマンディー軍の累積敗走ポイントも11に上った。両者互角といった状態である。 


つづく


天からデンマーク国旗が降ってきた Lyndanise 1219(VV118) AAR①

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